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2022/05/23

音楽業界コラムvol.4【ミュージックセラピー】

人生100年時代。超高齢化社会を支えるのは高水準な医療。

今後、「メディカルツーリズム(医療観光)」など医療領域が拡大する中、大切なのは、医療をサポートする介護の現場です。

ハード面で介護用ロボットやICTが充実する中、ソフト面では、“音楽”で癒す「ミュージックセラピー」が時代の先駆けに。


“人生100年時代”という言葉を最近よく耳にします。この“人生100年”を寿命で捉えると、世界第1位を誇る長寿国である日本だからこそ、より現実味を帯びます。ちなみに日本の平均寿命は84.3歳。しかし、この平均寿命は、その年に生まれた0歳児の余命を予想した数値で、あと何年生きられるかを知るのには“年代別平均余命”の数値の方が現実的です。還暦を迎える60歳の平均余命が26.8歳なので86.8歳、80歳の平均余命は10.9歳で91歳までと、年とともに平均余命は増える傾向といえます。一方、日常を制限されることなく健康的な生活を送る期間である“健康寿命”の平均は74.8歳なので、それ以降の持病の悪化など健康不安を抱えた残り約10年を、どう生きるかが課題なのです。また、少子高齢化の日本で “高齢者一人を現役世代何人で支えているか”について、すでに2014年(平成26年)時点では、ひとりの高齢者を現役世代2.4人で支えることに。こうした高齢者が増え続けている日本で、確実に必要とされるのは老後の医療現場や介護現場の充実で、それらに関わるハード、ソフト両面でのサポートに他なりません。


世界が認める日本の医療水準。介護との連携で超高齢化社会を支える。


国際的な権威ある医療専門誌によると、日本の医療の“質”は、195カ国中11位にランクされているとのこと。上位には人口規模が小さい国や北欧の福祉国家が名を連ね、人口規模や経済背景が近いG7(先進国7カ国)で比較した時、イギリスの30位、アメリカの35位と見比べても、日本の医療レベルが高いことが判ります。また、この高度な医療レベルを背景に、海外からの患者を受け入れる「メディカルツーリズム(医療観光)」の準備が整ったところでの新型コロナ騒動です。医療逼迫の危機を乗り越えたいま、高度な医療レベルと謳われたポテンシャルを再起動する岐路に立たされているともいえます。また、2025年(令和7年)、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者の仲間入りとなり、超高齢者社会を迎えます。当然のことながら、介護サービス利用者が一気に増加し、巨大市場が形成され、医療と介護の現場連携が必ず求められることが予測されています。元々のポテンシャルが高い医療と並走するために、とくに介護現場での人材確保と、新しい介護イノベーションが必須条件です。ハード面では介護ロボットやICT(情報通信技術)の研究が早くから進められ、車のセンシング技術を取り入れた電動車椅子、起き上がり姿勢までをサポートする介護ベッド、非力な介護士が装着して高齢者を支え起こすなどの力仕事をサポートするパワースーツ、高齢介護者の生体情報を医師が遠隔で把握するリモート診療など、すでに実現されている先端技術もあります。あとは、介護保険適用などによって、導入ハードルをいかに下げるかが当面の課題です。


介護分野で注目を集める「ミュージックセラピー」。


介護のハード面については、早くから推し進められていたこともあり、その未来像は容易に想像できます。一方、これからの課題となるのが、ソフト面。メンタルケアを目的とした介護用コミュニケーションロボットなどがありますが、現在、注目を集めているのが、「ミュージックセラピー」の分野。病院の待合室などで流れる穏やかな音楽に心を静めるのも、この分野のひとつ。こうした「ミュージックセラピー」分野で活躍するのが、“音楽療法士”という職種です。“音楽療法士”の職域は幅が広く、心を癒す音楽をセレクトして効果を確認しながら聴かせることをはじめ、歌唱指導や楽器の演奏指導、音楽に合わせて身体を動かすなどの活動を通して、“見る”“聴く”“触れる”といった感覚を刺激して、心のケアを行います。こうした“音楽”を軸においた活動は、認知機能、運動機能を維持、改善したり、豊かなコミュニケーション能力を引き出したりする効果があるといわれています。もちろん“音楽療法士”の介護対象は老齢者だけでなく、リハビリテーションの現場やお子さんの心のケアなどにも効果的です。こうした“音楽療法”の歴史をひも解くと、古くは、旧約聖書に、ダビデがサウル王の鬱病を竪琴の音色で癒したという記述が登場。また、第二次世界大戦時に、アメリカ軍の野戦病院で楽器の演奏や音楽を流したところ治癒効果が早まったことをきっかけに、音楽治療分野が確立されたともいわれます。「ミュージックセラピー」による治癒効果については現在も研究が進められているところ。とくに、介護対象者の状態は個人によって異なるケースが多く、初回にアセスメントセッションと呼ばれる介護対象者の状況把握が大切。そういう点では、ミュージシャンとしての技術を持った“音楽療法士”であればなおさら、現場での臨機応変な対応ができ、その空間にいるスタッフも含めたすべての人に感動を届ける空気感を創り上げることが可能です。また、世界的にSDGs(持続可能な開発目標)が叫ばれ、日本でも多くの企業がこのテーマに取り組みはじめた現在、医療と介護の充実による達成できる将来的な目標が数多く含まれています。

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