スペシャル対談
卒業生×在校生
SPECIAL INTERVIEW
世界中で愛されるゲームコンテンツを多数送り出している株式会社カプコン。
そこで働くkoyo卒業生を、在校生2名が訪ねました。
ゲームの音作りに興味津々の二人に向けて話してくれた言葉の
数々は、他の職業を目指す人にも大いに参考になることでしょう。
自分の強みをブラッシュアップして
人に伝えられるようになることが大事
- 小川
- もともとゲームは好きでしたが、最初から今の仕事に興味があったわけではなく、koyoではギターを専攻して、卒業した後も別の仕事をしていたんです。僕は出身が北海道で、高校卒業まで札幌にいたんですけど、当時はインターネットも今ほど普及していなくて情報が少なかったので、ゲームのサウンドデザインという職業があるなんてまったく知りませんでした。ギターは16歳くらいの頃に始めて、メタルとかフュージョンなどのテクニカル系が好きだったんです。それで、当時読んでいた教則本にkoyoのことが書いてあったのを見て興味を持って入学しました。在学中はギターの練習に明け暮れていましたが、ただひたすら弾くというより、何か実現したいことがあったら常に分析して仮説を立てて、検証して、軌道修正するという癖がついたのは、koyoで得た一番大きなことだったかなと思います。それは今の仕事であるサウンドデザインから、会社での普通の資料作りまで、いろいろなところに生かされています。卒業後はポストプロダクションの会社に就職して、ProToolsを使ってTVのニュース番組のMAや生放送のポン出しなどをやっていました。仕事はハードだけど楽しくて、学んだこともとても多かったのですが、そこで4年ほど勤めた頃にたまたまカプコンの求人を見つけて、ダメもとで受けてみたら採用されて、現在に至ります。入社した時点でゲームのサウンドデザインは未経験で、よく拾ってもらえたなと思います(笑)。
- 松田
- 今のお仕事では、具体的にどんなことをされているのですか?
- 小川
- ゲームで使われるさまざまな音をDAWで作って、細かいパーツごとに波形を書き出し、ゲームのエンジンに実装していきます。さらに、ボイスの収録や映像へのMAなども行います。1つのゲームに関わるサウンドデザイナーは、規模の大きなタイトルで5~6人、スマホゲームとかだと1人で担当する場合もあります。グラフィックなどのセクションも含めたさまざまな人たちと関わりながら、長い時間をかけて1つのゲームを作り上げていきます。その期間もタイトルによってさまざまで、1年とか2年、場合によっては3年くらいになることもあります。お二人はkoyoでどんな勉強をしているのですか?
- 神谷
- レコーディングを学んでいます。ProToolsのオペレートだけでなく、授業によっては自分でディレクションもしながら、ヴォーカルや楽器の録音/ミックスをしています。ゲームは好きでいろいろプレイしてきましたが、特に「バイオハザード4」はかなりやり込んでいて、新しく出た「RE:4」も最速で買いました。
- 小川
- ありがとうございます(笑)。
- 松田
- 僕も、今日はカプコンさんのオフィスに来られただけで興奮しています(笑)。koyoでは作曲をメインに勉強しているんですけど、楽器はベースをやっていてバンドも組んでいますし、シンセサイザーやDAWを使った音作りにも取り組んでいて、知り合いのアーティストの詩の朗読に曲を乗せたり、ミュージカルに曲を提供したり、映像に効果音を乗せたり......あちこちに興味が向きすぎているのが現状です。ゲームで言うと、フォーリー(足音や衣擦れの音など、日常の動作に関わる効果音)にはすごく興味があります。
- 小川
- 僕がkoyoに通っていた2013年~14年は、DAWを扱う学科もあるにはありましたが、どちらかというとプレイヤー系の学生の方が多かったイメージなので、時代の流れを感じますね。
- 松田
- ゲームの音作りに関して、小川さんは未経験で入社されたとおっしゃいましたが、技術的なことはどうやって習得していったのですか?
- 小川
- 僕と同じタイミングで入社した人の中にも未経験者は何人もいましたが、最初の数ヶ月は研修期間として、音作りからゲームへの実装方法まで、実際に業務で必要となる技術や知識を習得するカリキュラムが組まれています。そこで、どういうアプローチをしたら映像の中ではこういう音になるというのを学んで、あとは実践で覚えていった感じですね。
- 松田
- それでは、入社前の選考ではどういうアピールをすればいいでしょうか?
- 小川
- かなり踏み込んだ質問ですね(笑)。最終的には人それぞれということになりますが、我々サウンドチームのスタッフは「自分の強みはこれです」というのを1つ持っていて、かなり深いところまで突き詰めている人が多いと思うんです。お二人も、多かれ少なかれそういうものがあると思うので、それをさらにブラッシュアップして、人に伝えられるようにするのがいいんじゃないかなと思います。
プレイヤーが注目するところを意識しながら
音作りに優先順位をつけて効率化
- 神谷
- ゲームの中で出てくる音は、環境音や効果音からキャラクターの声まで無限にありますよね。先ほど、大きなタイトルでは何人かのサウンドデザイナーさんが関わるという話がありましたが、役割分担などはあるのでしょうか?
- 小川
- サウンドチームの中でもそれぞれに専門性があって、例えばフォーリー収録専門の人がいたり、ボイス収録専門だったり、ミキシングやマスタリング専門だったり、僕のように音を作ってゲームに実装する人だったりと分かれています。皆さんもお分かりの通り、昨今のゲームは大規模化しているので、ボイス収録もサウンドデザインもミックスも一人でこなすというのはなかなか難しいと思います。
- 神谷
- では、小川さんがお仕事をされる上でのポリシーみたいなものはありますか?
- 小川
- サウンドデザイン的なところでは、キャッチーな音作りを心がけています。プレイヤーがモンスターと戦っている場面があるとすると、インパクト音とかは入れて当たり前ですが、それが写実的になればなるほど、例えば砂埃が舞う音といった細かいディテールに対して音をつけることになります。僕はどちらかというと、その映像の中でプレイヤーにとってのプライオリティがより高いものに注力するという考え方です。もちろんそうじゃないところを省エネでやるわけではなく、優先順位をつけて効率化するということですね。実際、ゲームをプレイする方は目も耳も派手なものに向きがちなので、そういうスタイルの方が効果的に作れるのかなと考えています。
- 松田
- 今「キャッチーな音」とおっしゃいましたが、剣が当たる音とか走る音とかを作るときは、実際のリアルな音に近づけるというより、聞いたときにカッコいいと感じる方に寄せていくのでしょうか?
- 小川
- まさにそんな感じですね。
- 松田
- その「カッコいい」は、実際に作業する中でどう判断するのでしょうか?
- 小川
- 「カッコいい音」の定義は曖昧で、人それぞれ違いますよね。だから、より多くの人がカッコいいと感じるものがキャッチーだということになると思います。そこは非常に難しいところですが、プレイヤー目線というのは常に意識しています。
- 松田
- 実際に、プレイした人の反応をチェックすることもありますか?
- 小川
- 僕個人は、結構チェックしています。昨今だとSNSとか、YouTubeのゲーム実況とかいろいろありますよね。特にゲーム実況はその人の顔が見えるので、より細かい反応を知ることができます。SNSに関しては、良い反応があれば単純に嬉しく、糧になりますし、悪い反応も今後の改善点につながります。先ほど、プレイヤーは派手なところに注目しがちと言いましたが、実際にSNSを見ていると、意外と細かいところに反応してくださる方もいらっしゃったりして......。
- 松田
- 僕もその一部です(笑)。
- 小川
- (笑)それが参考になることも多いです。
たくさんの人と分業するゲーム制作は
コミュニケーションこそが大切
- 神谷
- ゲームに音をつけるときは、最初からどれだけの音を作るか決まっているのでしょうか?それとも作っていくうちに「ここにもうちょっと音が欲しい」みたいな感じで積み重ねていくのでしょうか?
- 小川
- 場合によりけりですが、僕は最初にアタリをつけます。例えば10秒くらいの映像にMAするとしたら、その10秒の中でここは特に聞かせたいところだろうというアタリをつけて、DAW上でどんどんマーカーを打っていくんです。そして、マーカーがついた箇所にざっくり音をつけて、ディレクターに方向性を確認してもらいます。そこまでは本当にスピード勝負、音のクオリティはひとまず度外視で、OKが出たら細かいディテールを詰めていくという感じです。最初から一つ一つ丁寧に音をつけていくやり方もあるとは思いますが、やはり仕事である以上、納期や締め切りが設定されているので、今話したような進め方をすることが多いですね。
- 松田
- それは、普段作曲をしている自分にも刺さる話です。僕はシンセを触るのが好きで、アタリもつけずに作り始めるので、「この音はもうちょっとこうした方が......」って考え始めると、締め切りギリギリになっても曲が出来上がらなくて、ピアノの音だけで終わってしまったりするんです。
- 小川
- 僕もそういう経験はありましたよ。上司から「もうちょっとアタリをつけて進めた方がいいよ」と言われて、少しずつ改善していきました。みんな最初はアタリのつけ方もわからない状態からスタートして、数をこなしていくうちに、その映像が一番伝えたいこと、前に出したい部分はここなんだろうなと推察できるようになっていく。あとは企画書を読み込んだり、キャラクターを企画した人に直接聞いたりすることもあります。
- 松田
- 音に詳しくない人から「こういう音が欲しい」という注文が来ることもあると思うのですが......。
- 小川
- 基本的に、サウンドチーム以外の人は音のことを専門にやってきたわけではないし、僕らも他の分野に関しては同じです。だからといって、注文に対してどう解釈するかで悩んでしまうことはなく、お互いにたくさんコミュニケーションとって、だんだん擦り合わせていくという感覚です。
- 神谷
- ゲームの音のディテールに関して、個人的に一番注目するポイントは足音なんです。走っているときと歩いてるときではもちろん違いますし、床の材質によっても全然違う。同じ金属の上でも、ちょっと砂が混じっているだけで音が違ったりすると「こんな音まで用意されているんだ!」って楽しくなる。そのゲームの凄みを、一番わかりやすく伝えてくれるのが足音なんじゃないかと思います。
- 小川
- 確かに足音って、ゲームの中で鳴っている率が高いですよね。そういう意味では、先ほど話したプライオリティは結構高くて、特に静かなシーンで出てくる足音には、かなりこだわっています。
- 松田
- そういった音は実際に収録することが多いんですか?
- 小川
- 足音に関しては、録音することが多いかもしれません。弊社のフォーリーステージ(収録スタジオ)にはいろんな材質の床があって、そこに砂を撒いたり、雨に濡れた地面を表現するために水で濡らして録ったりするなど、いろいろ試行錯誤しながら収録しています。
- 神谷
- 床の材質が同じでも、狭い廊下と広い場所ではまた違うじゃないですか。そういう違いをゲームにプログラミングするのも仕事のうちに入るのですか?
- 小川
- プログラミングはプログラマーが担当するんですけど、こういうふうにしたいという意図を伝えるのはデザイナーなので、どう伝えるかはとても重要です。今質問された内容の場合、場所の広さで音の響き方は変わるので、それをリバーブでどう表現するか。ゲーム内ではDAWとは違う複雑な処理がされているんですけど、僕らは言葉で意図を伝え、プログラマーはそれをプログラミング言語で実現するわけです。
- そうなると、やっぱりコミュニケーション能力はとても大事ですね。
- 小川
- お二人のコミュニケーション能力はかなり高いと思いますよ。みなさんのような人がこれからゲーム業界に入ってくると思うと、僕らもうかうかしていられません(笑)。
- 松田
- 僕たちも、ゲームの制作に関わっている人がどんなことを考えて仕事をされているのかを直接聞くことができて、さらに興味が湧きました。
- 神谷
- koyoで学んでいるとプロの方と関われる機会も多いんですけど、今日のように細かいことまでいろいろ話していただける機会はやっぱり貴重だと思いました。
- 小川
- こちらこそ、良い機会になりました。ゲーム開発者という仕事は、僕らが就職した頃よりもさらに広く知れ渡って、志望者も増えていると思います。そして今、世の中には、ゲームに限らず映像配信などいろんなジャンルのコンテンツが溢れています。そうすると、1つのコンテンツにかけられる時間は少なくなる一方で、コンテンツ自体の質はどんどん上がっている......そんな状況があると個人的に思っています。だからこそ、特にクリエイターを目指す人は、1つのものに集中する時間を大切にしてほしいと言いたいです。例えば映像だと倍速で観たり、ゲームだととりあえずメインストーリーだけ進めちゃったりとか、そういうのではなく、その1つにしっかり集中して向き合う。そこから得られるものってあると思うんです。それが積み重なって自分のアイデンティティが形成されて、深みが出てくるんじゃないかと。僕自身もまだまだ精進している最中ですが、「これだ」と思ったものを突き詰めることが、最初の方に話した「自分の強み」を作ることにつながるんじゃないかと思います。
PROFILE
株式会社カプコン サウンドプロダクション室 サウンドデザイナー
2016年から約4年程ポスプロで音響効果として実務経験を経たのちに2020年カプコンに入社。サウンドデザイナーとして「モンスターハンターライズサンブレイク」に従事。主にモンスターSE制作、プロモーション映像のMAなどを担当した。