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2022/05/23

音楽業界コラムvol.2【セルフプロデュース】

YouTubeやTikTokなどのSNS配信や定額音楽配信のサブスクを意識した自己表現に特化した「セルフプロデュース」の時代。


米津玄師やヨルシカ、YOASOBI、Adoなど、この時代の音楽を読み解く鍵は“ボカロP”。独自の世界観を表現する絵師起用のMVづくりも“音楽”へのこだわりの証だといえます。


日本でインターネットが定着しはじめたのは、Windows95が発売された1995年辺りからのことです。それ以降、ネットインフラは電話回線から光回線へ、通信速度や通信容量が飛躍的に進化。当時、広まりはじめた携帯電話もスマートホンへと置き換わり、スマートホンそのものも、どんどん進化を遂げています。今ではもう、ポケットにパソコンと高性能カメラを日々持ち歩いているようなもの。そして、デジタル環境が整備された中、SNSを活用した個人レベルの情報発信は当たり前の日常の何気ない光景のひとつとなりました。
音楽業界にも、こうした時代の波が押し寄せています。レコード会社、芸能プロダクションに所属し、CDの販売数を競い、紅白出場をめざすという、過去の登竜門であった本流の流れは影を潜め、アーティスト自らが「セルフプロデュース」を時代に。これまで埋もれがちだった才能やズバ抜けた音楽のセンス、自分しか持っていない“音”の魅力を輝かせやすい時代の到来です。



大きく変わる日本の音楽シーン。ヒットの仕方に、今までになかった異変が。


日本の音楽業界は現在、かつてないほど揺れています。新型コロナ禍で、規模の大きさに関係なく音楽ライヴシーンは大打撃を受けましたが、さまざまなライヴ配信の可能性が生まれたという大きな変化があったのも事実です。しかし、それ以前より、音楽業界の変化は確実に起きていました。古くはレコードの時代からCDへと続く、楽曲の販売枚数が、流行っている音楽の絶対的な判断基準。ところが、スウェーデンから“Spotify”が上陸し、スマホと相性の良い“Apple Music”、Amazonユーザーが無料で使える“Amazon Music Unlimited”など、サブスクの定額制音楽配信サービスが定着しはじめた2015年頃から、音楽シーンはジワジワと変わりはじめます。欧米ではもっと早くからサブスク配信が浸透していて、ようやく日本がそこに追いついた感じです。日本でのサブスクが市民権を得たのを見て、それまで参加を渋っていた日本のアーティストの多くが、楽曲のサブスク配信に踏み切ったことも、CDからサブスクのストリーミング配信への大きな転換期となったようです。
さらに音楽の業界マップを大きく変えたのが、YoutubeやTikTokなどを中心としたSNS配信です。とくに2016年、RADWIMPSの「前前前世」やピコ太郎の「PPAP」は、CD未発表曲ながら、音楽ランキングのヒットチャートに登場。この頃辺りから、業界の潮目が変わりはじめます。
それ以降、サブスクのストリーミング配信では、あいみょんの「マリーゴールド」が、Youtubeでは、YOASOBIの「夜に駆ける」やAdoの「うっせぇわ」、TikTokでは瑛人「香水」など、これまでの、ヒットチャートにランキングされる “ルート”とは異なる新しい手法で売れるアーティストが急増しています。


「セルフプロデュース」を披露する舞台は、トップアーティストと同じ。


とくに、SNS配信で人気を博すアーティストにいえることは、「セルフプロデュース」を巧みに取り入れているということに他なりません。
例えば、マイナー調のメロディーやコード進行を上手く使い、繊細な心の動きを描写するアーティストたち。例えば、聞こえる音数を少なくすることで、特徴のある声と歌詞を情景豊かにストレートに伝えるアーティストたち。例えば、声を転がすファルセットやエッジボイスの力強さで惹きつけるアーティストたち。自分発信ができるインフラがあるからこそ、自分の特徴を冷静に自己分析。その届ける“音”へのこだわりに妥協はありません。
また、アーティストたちのミュージックビデオも特徴的です。あえて顔出しをせず、絵師と呼ばれるアニメタッチのイラストを使い、歌詞の特徴を迫力ある文字で魅せ、強い惹きのある映像をつくりつつ、その正体は、かなりミステリアス。Z世代と呼ばれるファンを意識した主張の仕方が受けています。とくに、このミュージックビデオについては、CGと現実を組み合わせたデジタル映像の最先端技術がかなりの勢いで進化し続けているので、新しい映像美との出会いに期待が持てそうです。
「セルフプロデュース」について大切なのは、まず客観的な自己認識力。そして、発信する自己演出。ヒットのトップランクを走るアーティストと、これからデビューをめざすアーティストの卵たちが競うのは、同じステージなのですから。デビューから数ヶ月後には、トップアーティストと肩を並べることも、夢じゃありません。

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